通関士の仕事

通関士の仕事

通関士と通関業務従業者の人数

2021年4月1日現在通関士は全国に8,342人登録されています。同日付で通関業務に従事する税関に登録された通関従業者は8,105人でした。通関従業者の中には通関士有資格者で税関の確認を受けていない人も含まれていると推測されますから、通関業務に従事する人の半分以上は通関士資格を保有していることになります。

1985年4月1日時点の通関士は3,468人、通関従業者は6,302人です。2000年には通関士5,527人、通関従業者8,469人へ増えています。今から20年前まで通関士は従業者より少なく、2016年~2017年頃よりほぼ同数になり、2018年からは通関士の方が多くなっています。

通関件数の推移

2019年の申告件数は輸出1,985万件、輸入4,640万件でした。2000年の輸出入申告件数は 輸出1,067万件、輸入1,214万件なのでいずれも増えています。特に輸入は輸出と比べて件数、伸び率いずれも大きくなっています。通関件数の増加によって通関業務に従事する通関士、従業者はいずれも増えています。

通関士の仕事

 通関士の仕事は輸出入貨物の税関手続きを輸出入者の代理で行います。専門学校のサイトでは通関書類の作成と審査を行い、その他税関への意見陳述、不服の申し立て等を行うと紹介されています。実際に行っている業務はその通りなのですが、少し業務内容の具体性に欠けている印象もあります。営業所内で何をやっているのか通関業務従事者以外には少しわかりにくいかもしれません。

 書類作成について通関業務がシステム化された現在は、紙の書類を税関へ提出するわけではなく、NACCSシステムへの入力と入力事項に誤りが無いかチェックすることが主な業務です。

 書類作成と審査で最も大切なのは、複数種類ある通関書類の内容を読み解き、書類の整合性確認、輸出入予定貨物の内容把握と分類採番、他法令該非判定などを適切に行うことです。関税関係法令、国際輸送ルール、代金決裁、損害保険、倉庫オペレーションなど幅広い分野について理解していなければ書類の隅々まで理解することは難しいと思います。

 輸出入書類は英文書類が多いため、外国語の苦手な方にとって馴染みにくいと思われるかもしれません。実際には決まった単語や定型文が多いため慣れてしまえば難しいと感じなくなると思います。

輸出入貨物の分類(線引き業務)

 輸出入予定貨物はインボイスに記載されているアイテムごとに統計品目番号を採番します。(線引き業務と呼ばれる。)輸出と輸入の統計品目番号はHS条約で定められた国際ルールをベースにしている世界共通の品目番号です。輸出入するアイテムには全てこの番号を引き当てます。私たちの身の周りには比較的簡易に番号分類できるモノもあれば、番号分類の難しいモノもあります。正しい分類を行うには分類規則、解説、分類事例を読み込み

状況によってはベテラン通関士や税関へ確認を行います。

輸出入の品目表を比較すると輸入の方がより細かく、各品目番号に複数の税種別、税率があるためより複雑な判断を求められます。

 輸出入申告書作成業務の中で最もエネルギーを割くのはこの線引き業務と言っていいかもしれません。インボイスに異なるアイテムが多く含まれる場合も、アイテム1つ1つの分類を検討します。多アイテムの線引き業務は1~2アイテムの分類と比べて大幅に時間を要することになります。

 

 品目分類において比較的分かり易いアイテムや製品分野がある反面、理解しにくい難しいアイテムや品目もあることを述べました。難しい分野として食品、化学品、繊維製品は幅広く深い商品知識が求められます。通関業者にはこれらの商品取り扱いに特化した業者も存在します。輸出入者に匹敵する深い商品知識を持つ通関士はプロフェッショナルとして輸出入者だけでなく業界関係者からも尊敬されています。

通関士と通関従業者の違い

 通関士と通関従業者の業務内容にほとんど違いはありません。通関業者によって明らかに役割を分けている会社はあるかもしれませんが、書類作成と書類チェック(審査)を行う点では同じ業務の流れの中で分業または役割分担しているイメージです。

 輸出入申告は通関士の審査を経て行います。申告書類に審査担当通関士は誰なのか通関士コードが記載されます。審査担当通関士は書類作成者と比べて名前を出す点でより重い責任を持っていると言えます。

航空貨物と海上貨物

航空貨物の通関と海上貨物の通関に違いはあるのでしょうか。同じ法律に基づいて業務を行っているので基本的に違いは無さそうですが、輸送手段により違いはあると思います。

国際貨物の圧倒的物量は海上輸送されています。物量全体の95%以上は海上輸送で運ばれています。 輸送数量では圧倒的に少ない航空貨物なのですが、通関件数から比較すると航空貨物件数は輸出の約80%、輸入の約85%で輸出入いずれも圧倒的に多くなっています。

航空貨物の通関は圧倒的に多い件数を航空機の離発着に合わせた短時間で完了させなければなりません。空港エリアの貨物保管スペースは海上貨物の保管スペースと比較して広さは限られています。

 何が違っているのか具体的説明はここでは行いませんが、航空貨物は倉庫オペレーション、通関業者、税関のいずれも迅速対応が求められます。航空貨物と海上貨物の物量、スピード感からくる取り扱いの違いはこの点から明らかだと思います。

税関と通関業者(通関士)の関係

 グローバル経済の拡大によって日本単独では国際社会の中で生き残っていくことはできません。食料自給率は低く、資源の無い日本は貿易によって国民生活を支えています。税関と通関業者は輸出入貿易業務を国家と民間から支えるパートナーの関係でありたいと考えています。

貿易に関する国際的な課題は数多く存在します。最近では自由貿易主義から自国優先の保護貿易主義的な流れ、安全保障問題、地球環境保護、知的財産保護などがあげられます。

厳しい国際環境の中で、日本の競争力を維持し高めていくためには、官民は協力してヒト、モノ、カネを集めるアイディアを実現していかなければなりません。

輸出入アドバイザーとコンプライアンスの推進者への脱却

 通関士の仕事は今から50年前と比べて進化しています。書類作成や書類審査は国際貿易業務が複雑化した現在、通関士の知見(輸出入手続き、関税関係法令、関税評価、原産地規則、EPA等について)は貿易アドバイザーとして輸出入者の良きパートナーとして役割を果たせます。

50年前には現在ほど浸透していなかったコンプライアンス意識の高まりも通関士の可能性を広げています。通関士は輸出入業務におけるコンプライアンス推進者として通関手続きだけでなく保税業務などの税関関連業務へも職域拡大出来る可能性はあります。

通関非違

 通関業者として法令違反や輸出入申告手続きの誤りは絶対に起こしてはいけません。通関士も通関従業者もコンプライアンスに反することの無いよう慎重に仕事を行っています。

しかし残念ながら人間の行うことにエラーやミスはつきものです。これまで通関非違を防ぐためダブルチェックやトリプルチェックという沢山の人の目を通す手法が一般的でした。間違いを防ぐことが最優先であるため効率性や生産性は置き去りにされる傾向であったと言えるかもしれません。マンパワーに頼った仕事のやり方でいいのか、効率を二の次にした考え方をこの先も継続していくのか、これからの通関業務の課題です。

通関士のブログ

 通関士についてネット検索すると専門学校の資格取得に関するサイト、通関士試験の体験談などが見られます。それらのサイトでは実際の通関業務、通関士の具体的な仕事内容などについて細かい記載はありません。

 東京通関士部会では通関業務や通関士を世の中に広く知ってもらうため下記ブログに注目しています。

・通関士ゆうきのブログ(20216月~ )

  https://customs-labo.com/

   通関士ゆうきのブログは通関士のリアルを知りたいあなたへというテーマで28歳現役若手通関士から見た通関業務、通関士について取り巻く現状や課題について詳しく紹介している興味深い内容です。

・通関なるほどブログ(2018年6月~2019年4月)

  http://tsukannaruhodo.blog.jp/

   通関なるほどブログは輸出入通関手続きについて業界の人ならではの視点で書かれたブログです。残念ながら2019年4月で更新ストップになっています。

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